多くの日本人(特に男性)にとってジャッキー・チェンはやっぱりレジェンド的存在なので、こっちで出会う香港人や台湾人に「俺はジャッキーが好きだぜ!」と相手の文化の偉人を褒めてあげるようにしているのだが、どういうわけかジャッキー・チェンが好きだという香港人や台湾人に出会ったことが一度もない。この話をした人はみんなジャッキーが嫌いだという。
ジャッキー・チェンは昔は人気があったそうだが、今は嫌われているらしい。なんでも、妻子がいるにもかかわらず色んな女性と浮気をし、その度にセックススキャンダルが発覚するからだという。
そこで、「個人としてのジャッキー・チェンのふるまいは確かに良くないかもしれないけど、それでもアクションスターとしてのジャッキーはレジェンド的存在でしょ?それでも嫌いなの?」と尋ねてみるが、それでも「うーん・・・やっぱり嫌い。」とみんな苦い顔をするのである。解せないなぁ~と思うのだが、その辺りはやはり家族を大事にする中華系民族的価値観の表れなのかな?と考えることにしていたのだが、先日やっとジャッキーが嫌われている本当の理由がわかった。
How Jackie Chan Became The Most Hated Celeb On The Chinese Internet
http://www.buzzfeed.com/kevintang/jackie-chan-offends-chinese-netizen
要は政治的理由だったのである。この記事を読むとよくわかるが、どうやら中国本土では、ジャッキー・チェンは「五毛(英語では"five pence")」と呼ばれているようだ。五毛とはお金のことだが、一般人を装い、政府や自治体からお金を貰ってインターネット上で政府を擁護・賞賛したりプロパガンダを広める意図の書き込みを行う人を指すようで、その報酬が一件五毛(10毛=1元=0.5元)であることに由来しているそうだ。中国政府の情報統制の一つで、ネット評論員、世論誘導員とも呼ばれているとのこと。
五毛については、このあたりが詳しい。
五毛ーー中国ネット上の不思議な政府の飼い犬
http://blog.livedoor.jp/alexwangyang/archives/51656516.html
ネット用語から読み解く中国(11)「五毛党」(続)
http://www.toho-shoten.co.jp/chinanet/cn201106.html
記事によると、ジャッキー・チェンは故郷の香港について、「今やデモだらけの街と化した」と発言したり、中国本土については「自由を許しすぎると香港や台湾のような酷い有様になってしまう。中国市民は統制下に置かれるべきだ」と発言しているようだ。こんなこと連発してたらそりゃまぁ嫌われるよなぁ・・・wこの記事を読んで日本でもたまーに(本当にたまに)ジャッキーの日本に関する政治的発言が話題になるのを思い出した。
・・・確かに、わざわざ自分のイメージが悪くなるようなことを国外(日本)にジャッキー自ら広めるわけないよなぁ。だから、ジャッキー・チェンは日本ではいつまでもカッコイイ、レジェンドのままなのだ。
それにしてもやはり、中国という国(そしてその文化圏)は非常に面白い。こんなことを言うと現地の人々の反感を買うかもしれないが、こうした事実を客観的な現象として傍観するのは非常に興味深い。
ネット用語から読み解く中国(11)「五毛党」(続)では中国のある芸術家が実際に五毛党として活動している男性に行ったインタビューの日本語訳を掲載しているが、その内容は示唆に富んでいる。
問:典型的な“世論誘導”のプロセスを教えてほしい。
答:典型的なものはない。あまりにも数が多いから。例を挙れば、例えばガソリン値上げで、次のような通知を受ける。「ネットユーザーの感情を落ち着かせ、大衆の注意力を転移させよ」などだ。翌日ニュースが出れば、ネットでは国や石油会社を罵る書き込みばかりだろう。そこで我々が登場する。石油や不動産の値上げに対しては、我々は焦点を曖昧にし、人々の注意力を転移させる。
成功した例を紹介しよう。人々が値上げに対して政府や石油会社を罵っている時、私はあるIDで「どんどん値上がりすればいいじゃないか。どうでもいい、どうせあなたたち貧乏人は車なんて乗れないんだ。これで、道路は金持ちだけのものになる」などと書き込んだ。ネットユーザーを怒らせるのが目的だ。大衆の石油価格への怒りが自分に向かうようにした。これは本当に効果があった。自分もIDを変えて自分を罵り、多くの人が注目するようになり、自分を攻撃する人がどんどん増えた。こうして徐々にニュースコメントのページが自分の発言で埋め尽くされるようになり、人々が論ずる内容が石油価格から自分の発言へと変化、こうして目的を達したのだ。
問:ほかのやり方は?
答:いろいろなやり方がある。言うなれば人の心理を弄ぶ感じだ。現在のネット市民は、以前と比べて思想的にも進歩している。以前は何が起きても、マイナスの情報は伝わるのが早く、人々は信じていたが、現在はこれはヤラセではないか、と疑うような人が多くなった。
問:この仕事は中国の世論誘導にどの程度の役割を果たしているか?
答:役割は小さくないと思う。正直なところ、中国の大部分のネット市民は馬鹿だ。誘導してやらないとデマを信じるようになる。今回の塩事件がいい例だ。
中国のメディア関係者と交流する際、しばしば彼らが口にだすのは、「日本のメディアはなぜ、世論をあおるだけで、もっと世論を正しい方向に導こうとしないのか」ということだ。民衆は導かれるべきものであり、メディアはその手段なのだ、という意識が中国のメディア関係者には根強く残っているようだ。ネット評論員=五毛党もいわばその延長線上にあり、それゆえ、前述のような発言が出てくるのだろう。
世論に良い悪いがあるのかという疑問は別として、五毛党による世論誘導には、経済や社会の混乱を防ぎ安定を保つという、政府の直接的な利害を抜きにした狙いもあるというのが興味深い。その意味では、世論の誘導には「功罪」と呼ぶべき側面があるのかもしれない。
日本でも、数年前にステルスマーケティング(通称ステマ)と呼ばれるマーケティング手法が悪質だとして話題になった。レストランや出会い系サイト、オークションサイトなどの経営者が金を支払い、レストラン評価サイトやブログなどで一般利用客を装って都合の良い感想コメントを書いてもらい、それを読んだ人が利用したくなるように仕向けるというものだ。それが政治に関連した内容かどうかというだけの違いでしかないという見方をすれば、日本にも中国の五毛党と同種の人間が多く存在すると言えるだろう。しかも、日本の場合は、五毛党のように政府による中央集権的な誘導ではなく、個々の一般企業が分散的にこうしたマーケティングを行っているため、五毛党による書き込み以上に見ぬくのが難しいと言える。インタビューの中で、五毛党は「中国の大部分のネット市民は馬鹿だ」と発言しているが、日本人がそれと同種のステマを見抜けているかどうかは非常に怪しい。実際、「利用する人たちは情報源を確認せずにデマを信じて拡散する馬鹿の集まりだ」という意味合いで、ツイッターを「バカッター」と揶揄する人たちがいる。五毛という中国特有の現象から我々が学べることがあるだろう。
それにしても、ジャッキー・チェンは本当に五毛党なのだろうか。上に挙げた記事ではそれは言及されていないが・・・。
中国では嫌われ者かもしれないけど、それでも俺は好きだよ、ジャッキー!