このエントリーをはてなブックマークに追加
ラベル 通訳 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 通訳 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2023/05/28

嘉手納外語塾にキャリアトークに行ってきました

先日、沖縄県内の先輩通訳者である宮里さんにお誘いいただき、嘉手納外語塾のキャリアトークというイベントに講演者として一緒に参加して生徒のみなさんと交流してきました。
この学校は嘉手納基地の近くに位置しており、高校卒業後の若い方たちを中心に、20人程度の学生が少人数制で英語を学んでいます。今回は生徒のみなさんに、通訳という仕事の紹介、英語学習のコツ、そして卒業後の進路に関して僭越ながら色々とお話をしてきました。

社会人になると10代の年齢の方と交流する機会はほとんど無くなってしまうので、個人的に楽しみにしていたイベントでした。てっきり、当日までは塾側(担当教員)と打ち合わせなどを進めるのかと思っていましたが、打ち合わせから当日の進行まで塾側はほぼノータッチで、生徒の自主性に任せていた様子。我々はずっと代表の学生お二人と連絡を取っていました。後で話を聞くと、このお二人は自ら運営役に名乗り出たらしい。いやー、すごいですね。私なら絶対に面倒くさがってやらないのに・・・!

運営役のお二人だけでなく、当日初めてお会いした他の生徒のみなさんもハキハキとされていて、将来の目標や進路についてもある程度考えがある方が多かった印象でした。それぞれ色んな興味関心があり、自己紹介を聞くのが面白かった。自分が同じ年齢の頃はここまでしっかりしていなかったような気がします。

 講演では、現場の写真や資料を見せつつ、宮里さんとアレコレ裏話も交えながら通訳の仕事について紹介し、また、事前に生徒にヒアリングしたアンケートをもとに、英語学習に関する質問に答えたり、卒業後の進路について話をしたりしました。
ユニークだったのは、この塾が嘉手納基地の近くにあるということもあってか、「英語を使った仕事がしたい」という気持ちで米軍基地内での就職を考えている生徒が多かったこと。那覇では米軍基地や米兵を見かけることが少ないので、このような進路選択の発想は少ないのではないかと、興味深く感じた。他にも、やりたいことが見つからない、とか、自分が何に向いているのかわからない、という生徒もいらして、「そりゃそうだよな、社会に出る前に社会とどう関わるかなんて考えられないよな。無理ゲーだよ!」と学生だった当時の自分の気持ちを思い出しました。私はどちらかというと大学生時代に就職活動をテキトーにやってしまったクチなので、進路や就活を考えることの面倒くささはよくわかります。 

これは20代を過ぎてからじゃないと理解するのは難しいかもしれないけれど、仮に、就活に失敗したり、後で後悔したりしたからといって、人生が終わるわけではまったくないし、むしろ20代のうちはいくら失敗してもいくらでもやり直しがききます。焦らず、悩みすぎないでほしいなと思う。仕事でも、プライベートでも、何でも、とにかく自分が興味のあることに色々手を出してみればいつか道は開けるでしょうから。 

個人的に力説したのは、進学・就職を問わず、地元である沖縄を出て、県外や海外で生活をすることの重要性。自分自身を振り返ってもそう思うのだけれど、やはり、地元にいるだけでは得られない学びや経験、出会いというものは沢山あるし、そういったものの蓄積が新しい視点を養うことに繋がると思います。ぜひ、将来設計を地元だけに絞って考えず、若いうちに新しい環境に飛び込んでみることを一度は選択肢に入れてほしい。そしていつか将来、地元に貢献したいという気持ちが彼らの中に生まれると良いなと、おじさんの私は思いました。

でも、「地元に貢献しなさい」とか「世の中の役に立ちなさい」っていう周囲の大人の言葉は、自分の人生の道筋をハッキリさせるので毎日精一杯な若いうちはうるさいとしか思わないでしょうから(私がそうだった)、まずは自分のやりたいこと、やってみたいなと思うことに我慢せず挑戦して、自分が楽しいと思える生活を送れるようになってほしいなと生徒のみなさんと語りながら感じました。
他にも、宮里さんと私で色々とそれぞれの人生を振り返ってアドバイスっぽいものや意見をお伝えしたのだけれど、どれか一つでも彼らの役に立ったなら幸い。 私も彼らに負けないように、キャリアを積みながら充実した日々を送れるようにしよう、とフレッシュな気持ちになった一日でした。

2022/02/26

国際会議の同時通訳デビューを振り返って・・・余談

 今月の頭に、ひょんなことから国際会議の同時通訳者としてデビューする機会をいただいた。これまで社内通訳者として企業の会議の同時通訳を経験することはあったものの、国際会議を経験したことはなかった。自分の今の通訳技術や経験からして、国際会議を経験するのはもっと先の将来になるかな、と思っていたのだけど、思いがけないオファーをいただき挑戦することにした。メールで最初にオファーを頂いた際には断ろうかと思っていたのだけど、私と一緒にオファーを受けた、以前一緒に通訳講座を受講したことのある仲間の通訳者の上妻つぐみさんが「やります!」と尻込みすることなく即返答したのに驚きつつ背中を押され、挑戦することにした。多分上妻さんのお返事が無かったら断っていた気がする。上妻さんは日頃から積極的で、日本会議通訳者協会(JACI)の英語セミナーの同時通訳にも挑戦するなど非常にバイタリティのある方で、彼女の意欲を見習わないとな・・・と改めてリスペクト。


実際の会議のあれこれについては、僭越ながらJACIに体験を寄稿しました。
国際会議の同時通訳デビューという、有難くも緊張感たっぷりだった機会を頂いたので、私からこのお仕事を受けるに至った経緯や学んだことをささやかながらお伝えしたいと思います。

まとまりがつかなくなるので記事には色々書かなかったことがあるのだけど、その一つとして改めて感じたことは、通訳は勉強が好きじゃない人には続けるのが難しいだろうな、ということ。
記事にも書いた通り、原発と放射能という理系分野にたじろいで勉強を始めるのが遅かったのだけど、本を読み進めていくうちに少しずつ書いてある内容が理解できる感覚が広がってきた。新しい知識が身につくときの高揚感が出てくるようになってからは楽しくなった。通訳者は案件ごとにこういうことをやらなければいけないし、本を読んで予備知識をつけるだけでなく、記載されている内容(専門用語)を本番当日は日本語と英語で表現できるようにならないといけないので、用語集の作成も同時に進めていく必要がある。日本語で読んでいて、「加圧水型原子炉」と書いてあれば、その内容をきちんと理解するためにネットで検索したり、YouTubeで動画を見たりするし、更にその言葉を辞書で引いて英訳を調べていかなければいけない。
私の場合は、幸い勉強は好きな方だと思うし(普段はサボりまくっているが)、英語という言語も好きなので辞書を引くのにも苦にならない。実際にはかなり地味で時間もかかる作業だから、これを楽しんでできる人じゃないと通訳という仕事はキツいだろうなと思う。でも、それが楽しんでできる人であれば、案件ごとに様々な分野の新しい知識を身につけていくこの仕事は、勉強をしてお金を貰える稀有で面白い仕事だと思う。案件が終わって学んだ知識を使う機会が無くなったとしても、その知識は無駄にならず、その後の人生を豊かにしてくれる。


大抵の場合、一つの説明だけでは素人には理解できないことが多いので、同じ内容を説明した別の資料を探したりする。

ある程度理解できたと感じたら、辞書を引いて訳語を探したり英語の資料も見てみる。

こうやって調べていくと、今度は「どうやって蒸気でタービンを回して、更に発電機が回るんだ!?」と気になることが無限に出てきてキリがない。時間が限られている中でどこまで調べるか、あるいは諦めるかを判断するのも結構難しい。

けど、今の時代はこうして簡単にYouTubeなどで映像資料が簡単に見つけられるのは本当にありがたい。ほんの15年ぐらい前までYouTubeなんてなかったから、それ以前に活動していた通訳者たちは本当にすごいなと思う。原子炉やタービンの仕組みなんて、絵と文章だけでは理解できなかった気がする。

あとは、JACIの記事にも書いているのでしつこく書くのは避けるけども、通訳を目指すきっかけになった関根マイクさんとチームを組んで一緒に仕事をさせていただいたことは自分の人生の中で一つの大きなマイルストーンになったと思う。
高校当時のインターンシップでは「得意な科目は英語しかないし、何か将来仕事をしたいとしたら、英語を道具の一つとして営業マンとかをやるのではなくて、英語で稼ぎたいな。だとしたら通訳かな?」と結構安直に考え、選択肢を無視してインターンシップの希望先に「通訳」と書いたところ、それを見た教員が私のためだけに地元のエージェントを探してくれた。それが今日に至っている。住まいや生活環境などが変われば、公私ともに人とのつながりも変わっていくのが人生というものだけれど、今でも変わらず付き合い続けてくださっていることに感謝。昨年は一緒にマラソンもさせてもらったし、今後もしつこく絡ませていただきます。

時間が経つのは本当にあっという間で、ふと、自分がこれだけの時間生きてきたことを信じられなくなることがある。「あれ、俺この前まで小学生じゃなかったっけ?」みたいな。一代目として農家を始めたり、起業して社会貢献したり、結婚して家庭を持ったり、歌って踊れるアイドル的バスガイドをやっていたり、営業からエンジニアにキャリアチェンジしてフリーランスとして成功したり、外資系監査法人で激務に追われながらも英語の勉強をしたりと、周囲の友人がそれぞれ着実に何かを実現したり、自己研鑽に励んでいる中で、多少なりとも彼らに負けないぐらいには、成果を出せているだろうか?

勝って兜の緒を締めよ、ではないけども(そもそも勝てたと言える結果ではなかったが)、今度は更に自信を持って国際会議に臨めるようにしたい。

2021/11/20

「通訳の仕事 始め方・続け方」を献本いただきました

 JACI(日本会議通訳者協会)から「通訳の仕事 始め方・続け方」を献本いただきました!



詳しい感想はAmazonに投稿しようと思いますが、通訳になりたいと学習中の方だけでなく、私のような駆け出しの通訳にとっても参考になる内容です。改めて、この場でお礼申し上げます。ありがとうございます。

「通訳になるためにはどうすれば良いか?」という内容の記事や書籍はこれまでにも色々と出ていると思いますが、通訳になった後に継続的に仕事を続けていくための仕事の増やし方やキャリア形成について現役のプロの目線からアドバイスされたものはそこまで多く出ていなかったのではないかと思います。

私自身、現在通訳としてお仕事できているものの、ここまで来れたのは本当に幸運が積み重なった結果だと思っているので、私よりずっと経験豊富なプロの方が実名で体験を語ってくださっているのは今後の自分の処し方を考える上で非常に参考になります。2021年の終わりが近づく中で、いただいた本を読みながら今後のキャリアについて考えてみようと思います。



※余談ですが、「献本いただく」という表現は誤りで、正しくは「恵贈」という意見があるようです。一方で、検索してみると「献本いただく」の表現は「恵贈」以上にかなり一般的に使われているようでした。悩んだ結果「献本いただく」をタイトルに採用しました。

2015/04/10

海賊王になってきます!

またしばらく日本を離れます!今回は3ヶ月ちょいぐらい。

日本に帰ってきてから仕事をするか通訳学校に通うか考えていたのだけど、良いタイミングでピースボートの通訳ボランティアとして採用してもらえたので乗船することにした。
2日後に今いる横浜から兵庫に移動し、13日に出航、本格的な旅が始まります。

念のため説明すると、ピースボートとは世界各地で草の根的に平和活動を行っているNGOで、年に4回ほど船で地球一周と銘打った3ヶ月の旅を行いながら、様々なプロジェクトを通して各地の団体と交流している。今回は終戦70周年ということで、おりづるプロジェクトと呼ばれる広島・長崎の被爆者の体験をシンガポールやドイツに届ける活動が目玉の一つ。ピースボート内ではCC(Communication Coordinator)と呼ばれる通訳スタッフは、船内で行われるゲストスピーカーのプレゼンや現地でのプロジェクトを逐次や同時で通訳して、乗客と英語教師として乗船している外国人スタッフを助けるのが役割。また一般の乗客が寄港地で参加する観光ツアーのツアーガイドの通訳も務める。他にも、色々。

今回俺が参加するのは北欧をメインに24ヶ国を周るクルーズ。

今回の航路
ピースボートは毎回ボランティアの通訳スタッフを募集しているのだけど、本当に通訳としての経験が得られるポジションなのか最初は懐疑的だった。ところが、色々と経験者の話を聞いてみると逐次も同通(と翻訳)もバリバリ要求され、馬車馬のごとく働かされるポジションということだったので応募した次第。なので、「地球一周」にももちろん興味はあるのだけど、それ以上に通訳修行として参加するという気持ちの方が強いです。早速、2日後にクルーズ一発目のイベントとして予定されている出航式の司会の通訳を任されたので楽しみにしています。横浜から乗る乗客と全スタッフが集結して乾杯をあげる重要イベントらしいので責任重大な予感!噂では500人ぐらいの前でやることになるらしい笑 しかも、12人で構成されるCCチームの初仕事を代表として務める場でもあるため、ふつふつとテンションが上がってきてます。出航後は、各地を目指しながら船内で開かれる20名ほどの専門家のプレゼンに通訳として入る予定。戦争・歴史・原発・自然エネルギー関連のプレゼンが多数予定されているので、積極的に関わり通訳の卵として歴戦の傷跡を負って帰ってきます!

今後、各寄港地でネットにアクセスできる機会があればまたブログを更新して近況を報告していく予定。応援よろしく!

2012/12/31

NAATIについて調べてみた~認定制度編その3~

過去二回の記事のまとめ。
NAATIについて調べてみた~認定制度編その1~
NAATIについて調べてみた~認定制度編その2~

翻訳者あるいは通訳者としてNAATIの認定資格を取得する手段は五つ存在するが、それぞれ取得できる資格が異なっており、自分の好きな手段で好きな認定資格が得られるわけではないことに注意する必要がある。また、かなりハードルの高い申請条件が設置されているものもある。
これらを踏まえた上で整理すると、

NAATI指定校の翻訳(通訳)課程を終了する>認定試験を受ける>その他の方法で申請する

この順番でNAATI認定資格取得を目指すのが最も簡単(合理的)であるということになるだろう。全体的な統計がホームページ上に掲載されていないためハッキリしないが、2010年~2011年の年次報告書のデータを見る限りでは、この期間に認定を受けた翻訳者(通訳者)の67%が指定校経由での認定取得となっており、次いで認定試験受験による認定取得が30%となっている。残りがその2の記事で挙げた3,4,5番目の方法による認定取得になるが、それらが全体に占める割合はたったの3%となっている。このことからも、上述した順番での認定取得が一般的であることが窺える。

ちなみに、認定試験の試験要項末尾には言語別に試験に関する特記事項があり、日本語の試験については以下のように定められている。
  • 漢字は常用漢字1945字のみ使用可能、旧字体の使用不可
  • かな表記は現代仮名遣いに準拠
  • 筆記は楷書によること、草書体は不可
  • カタカナの表記は研究社「新和英大辞典 第4版」で定められた再修正ヘボン式に準拠
  • 言語は標準語を用い、方言やスラングを使用しないこと(翻訳試験・通訳試験)
また、規定に沿わない「異なった文字や仮名遣い」は採点の対象から除外されるとまで記されている。なかなか細かく定められていて驚いた。

少し脱線するが、個人的に気になったのが「方言やスラングを使用しないこと」の部分。これは以前から考えていたことなのだが、私の場合、将来通訳をするにあたって訳出の面で沖縄で育ったことがいつか障壁になるのではないかと小さな不安を抱いている。というのも、沖縄の言葉遣いには方言とは別に沖縄独特の日本語表現というものがあり、字面は日本語なのだが、そのような言い方は内地(本土)ではまったく使われない、というものがかなりある。しかも、沖縄人のほとんどはそうした表現は内地でも通じる一般的な表現だと思っている。たとえば、
  • クーラーが「逃げる」(冷気が窓などから出ていくこと)・・・「クーラーが逃げるから窓閉めて~」など
  • 洋服を「つける」(衣類は全て「着(つ)ける」で表現する)
  • 水を「こぼす」(意図的に捨てること。日本語の「こぼす」は不注意によるものらしい)
  • 「~しましょうね、~しようね」(日本語ではLet's、お誘いの意味だが沖縄ではただの報告)・・・「じゃあ帰りましょうね~」(=いっしょに帰ろうという意味ではなく、さようならの意味)」
私自身、このような表現が沖縄独特のものであるということは、FM沖縄の「辞典には載っていないウチナー口講座」で大学生時代に初めて知った。

こうしたことを考えると、試験官はこういった些細な言葉遣いを厳密に発見し採点に反映させることができるのだろうかと疑問が浮かんでくる。その1で紹介した丸岡さんの記事でも指摘されているが、採点者は同レベルの通訳者・翻訳者が務めることになっている。受験者の解答が常用漢字1945字のみを使用し、研究社の再修正ヘボン式に則ったものになっており、そして方言やスラングを使用していないか、文章や録音データを一つ一つ確認するのはそう簡単ではなく、採点にかなりの時間を要するように思うのだが・・・。

以上、かなり大雑把ではあるが勉強も兼ねて認定制度について目立った箇所をまとめてみた。誰かの役に立てば良いのだが・・・。

NAATIについては今後も継続的に記事にしていく予定(予定…)なので、こういう点を調べて欲しい、という要望などがあればお知らせください。ご期待に応えられるかは不明ですが(^_^;)

NAATIについて調べてみた~認定制度編その2~

前回の記事では、認定試験によるNAATIの認定資格取得について確認した。今回は、それ以外の

2.オーストラリア国内のNAATI指定教育機関で翻訳(通訳)課程を修了する
3.オーストラリア国外の教育機関で取得した翻訳(通訳)の資格で申請する
4.国際的なプロ翻訳者・プロ通訳者協会への加盟証明を行う方法
5.突出した実績を証明する方法

についてみていく。

前回の記事では、翻訳・通訳両方の認定資格において、試験制度では取得できないものがあることがわかった。そこで、上に列記した2~5番目のいずれかで認定申請を行う場合について、それぞれの資料を読んでみると、これらの申請方法であればConference Interpreter(シニア含む)とAdvanced Translator(シニア含む)の認定が受けられる旨記されている。やはりこれらの資格は認定試験の受験では取得できない仕組みになっており、認定資格自体が廃止されたり統合されたりしたわけではないようである。
では、1つずつ見ていく。

2.オーストラリア国内のNAATI指定教育機関で翻訳課程あるいは通訳課程を修了する
日本語の翻訳・通訳(もしくは両方)認定が受けられる学校はオーストラリア国内に現在16校あり、来年2月からはメルボルンのモナシュ大学でもNAATIの指定を受けた翻訳・通訳課程が始まる。これらの教育機関で翻訳(通訳)課程を修了した学生は認定試験を受験する必要のなく各教育機関毎に定められたレベルの翻訳者(通訳者)認定を受けることができる。
NAATI指定一覧はこちら(2012年11月現在)。

3.オーストラリア国外の教育機関で取得した翻訳(通訳)資格で申請する場合
この方法で取得できる認定資格は以下。
  • Advanced Translator
  • Professional Translator
  • Conference Interpreter
ただしこの方法による申請の場合、オーストラリア国内で翻訳(通訳)課程を修了した場合(方法2)と異なり、当該教育機関での資格取得(課程修了)イコールNAATI認定取得にはならないと記載されており、同じ教育機関から複数の生徒が申請を行うようなケースでは、各人の実務経験なども別途加味した上で査定を行うため、申請が通るかどうかの結果は一人一人異なると明記されている。

4.国際的なプロ翻訳者・プロ通訳者協会への加盟証明を行う方法
この方法で取得できる認定資格は以下。
  • Advanced Translator(シニア)
  • ---国際会議翻訳者協会(Association Internationale de Traducteurs de Conference)をはじめとする協会の加盟会員に付与される認定資格。
  • Professional Translator
  • ---翻訳の学位を取得している英国公認言語学会(Chartered Institute of Linguists)会員に付与される認定資格。
  • Conference Interpreter(シニア)
  • ---国際会議通訳者協会(Association Internationale des Interprètes de Conférence)会員に付与される認定資格。
他の方法と同様、この方法による認定申請も関係書類(会員証明など)の提出によって査定される。

5.実績証明
この方法で取得できる認定資格は以下。
  • Advanced Translator(シニア)
  • Conference Interpreter(シニア)
「突出した実績を証明する」だが、資料によると、
Advanced Translator(シニア)
  • 申請の時点で最低でも過去5年以上に渡り国連関係機関、欧州連合(EU)、インターポール、国際司法裁判所、NATOで常勤翻訳者として働いた実績のあること、あるいはフリーランスとして以下全てを満たすこと
    1. ヨーロッパ言語またはアジア言語への100万語以上の翻訳実績、または1ページ25行ダブルスペースの様式で4000ページ以上の翻訳実績があること。またそれらの実績が申請者自身の活動のみによって達成されたものであることをバンクーバープロトコルに基づき法的に宣言すること
    2. 査定用にAdvanced Translator以上の基準で訳出した翻訳文書を3つ提出し、それらの実績が申請者自身の活動のみによって達成されたものであることをバンクーバープロトコルに基づき法的に宣言すること
Conference Interpreter(シニア)
  • 申請の時点で最低でも過去5年以上に渡り国連関係機関、欧州連合(EU)、インターポール、国際司法裁判所、NATOで常勤通訳者として働いていること、あるいは
  • フリーランス会議通訳者として国際会議、セミナー、政府による多国間協議に150日以上従事していること

これらが認定に必要な実績の目安として定められている(他にもそれら実績の証明方法に関わる規定がある)。かなり厳しい条件のように感じる。

ある同時通訳者は、ミス・ユニバースで通訳を務めてきた経験も、同時通訳者としての15年のキャリアもNAATIの認定取得には全く役に立たず、泣く泣くProfessional Interpreterの試験を受験するしかなかったと嘆いている。しかもこの同時通訳者は不幸なアクシデントのおかげで再受験するハメになったようだ。

ここまで具体的に明記されていると、たとえどれだけ知名度の高い国際的なイベントや会議でも、ここに明記されている機関以外での活動は「突出した実績」とはみなされないということかもしれない。

このように、申請する方法によって取得できる認定資格がかなり細かく区別されている。

NAATIについて調べてみた~認定制度編その1~

今月はじめに師匠に招待され、シドニーで開催された通訳者・翻訳者向けのAUSITカンファレンスに参加した。その際に、「自分のためにもなるからNAATIについて調べてみたら?というか調べろ。」と命を受けたのでまずはNAATIの認定制度を中心に調べてみた。

オーストラリア政府公認の下、翻訳者・通訳者の認定を行ない、政府公認のプロとしてお墨付きを与えているのがNAATIという団体。団体の目的と制度については「翻訳・通訳業界に資格試験制度は必要なのか?」という記事で翻訳者の丸岡さんがかなりわかりやすい説明をされている。

彼の記事によると、NAATIは1977年に当時の移民省という部門に設置されたそうだ。私自身でも認定制度と併せて組織の沿革なども調べようと思ったのだが、NAATIの公式サイトには「コモンウェルス(連邦政府)、州政府、領政府の共同で運営されており、2001年会社法(Corporations act 2001)でその設置が定められている」と軽く触れられているだけで、組織の沿革に関する具体的な情報や資料はあまり掲載されていない。 この記事では自身で確認できた範囲でまとめていく。

NAATIの目的
NAATIは組織の目的について、「コミュニケーションの多様性に伴う需要の変化に応えることによるオーストラリア社会の統合と参画強化」を掲げており、以下をその主たる方策としている。
  1. 通訳と翻訳における高い国家基準の設定、運用、普及
  2. 基準を満たす翻訳者・通訳者の認定による品質保証制度の導入
オーストラリア国内での通訳・翻訳産業の品質維持のためにこの認定制度があるわけだが、翻訳者(通訳者)として認定を得る方法には以下の五つがある。
  1. NAATI認定試験の受験
  2. オーストラリア国内のNAATI指定教育機関で翻訳(通訳)課程を修了する
  3. オーストラリア国外の教育機関で取得した翻訳(通訳)に関する資格の取得証明
  4. 国際的に認知されたプロ翻訳者・プロ通訳者協会への加盟証明
  5. 翻訳(通訳)における突出した実績の証明
一口に翻訳者認定・通訳者認定といってもそれぞれいくつかのレベルが存在し、申請者の翻訳(通訳)能力と既に取得している認定資格によって得られる認定資格が異なる。
いずれにせよ上に挙げたどの方法でも同じ認定資格が得られるとてっきり思っていたのだが、どうやらそうではなく、申し込む方法によっても取得できる認定資格に違いがあるようだ。

1.NAATI認定試験の受験
まず、試験による認定制度について、最新版と思われる2012年10月時点での試験要項をもとに認定資格ごとに出題形式と合格基準も併せてマインドマップにまとめてみた。
この方法で取得できる認定資格は以下。
翻訳者認定
  • Paraprofessional Translator(レベル2)
  • Professional Translator(レベル3)
  • Advanced Translator(レベル4)
通訳者認定
  • Paraprofessional Interpreter(レベル2)
  • Professional Interpreter(レベル3)
出題形式と合格基準

これとは別に、2010年10月付けのNAATI認定資格概要では、認定資格について以下の種類が挙げられている。それぞれシニアが最上位の認定資格である。
翻訳者認定
  • Translator Recognition
  • Paraprofessional Translator(レベル2)
  • Professional Translator(レベル3)
  • Advanced Translator(レベル4)
  • Advanced Translator(シニア、レベル5)
通訳者認定
  • Interpreter Recognition
  • Paraprofessional Interpreter(レベル2)
  • Professional Interpreter(レベル3)
  • Conference Interpreter(レベル4)
  • Conference Interpreter(シニア、レベル5)

比べてみるとわかるが、これらのうち、最初にまとめた認定試験制度の試験要項にはConference Interpreterの記載が無い。最上位資格であるこの認定資格は試験では取得できないということなのだろうか。
翻訳者資格認定については、Advanced Translatorの資格が1つしか記されておらず、2010年以降一つの資格に統合されたのかどうかなど、特別な説明が見つけられなかった。
また、「レベル5」というような呼称も、2010年の資料の時点で"formerly known as level 5"のように記載されているため、現在では用いられていないように聞こえる。

この不明点を明らかにするために、次回の記事では認定試験以外の方法による認定資格取得についてみていこう。

2012/09/03

日本語がヤバい

タイトルの時点で既にアレなわけだけど、今日は真面目な話。というのも、オーストラリアでの生活も今日でちょうど2ヶ月を迎えた今日この頃、自分の日本語の能力が急速に劣化しているのを感じている。特に喋りと執筆。つまりアウトプット。発話中や執筆中に言いたい言葉が出てこないという状況が頻発するようになった。英語での生活にドップリ漬かっているせいだろう。同時に、自分の英語が上達しているのも感じているため、ある意味好ましい状況なのかもしれないが、だからといって看過できる問題ではない。言葉が出てこないばかりか、文章の言い直しも多発するなど、非論理的・支離滅裂な日本語を話すことが多くなっている自分の日本語に大きな危機感と恐怖に近いものを抱いている。英語の底上げを図りに来たこの地で母語が劣化し、ほんの少し英語が伸びた一方で日本語がボロボロになって帰国するなんて結果になっては本末転倒もいいところ、何とも皮肉なことだ。日本語に触れる機会が減少するのは当然分かり切っていたことだが、自身でここまで客観的に問題視できるまでに大きく変化する事態は予想できなかった。

そして自分の日本語能力の劣化に気づいて以来、ある事実に気づいた。それは、ここで生活している日本人のほとんどが同様の問題を抱えているということ。恐らく彼らは気づいていないかもしれない。それか、気づいていたとしてもそれほど問題視していないかもしれない。この二ヶ月で既に多くの日本人と日本語で会話をしてきたが、彼らの発言の中にも、俺が今直面しているのと同様に、「あー・・・、あー・・・」と言葉を探している瞬間が多く観察できる。中には日本語の代わりに英語の単語で置き換えをする者もいる。ルー語的な。

これは多くの日本人にとっては大した問題ではなく、むしろ無視してもよい現象だと思う。片方の言語に偏った生活をしていれば当然そうなるし、何より意思疎通は依然として問題ないからだ。「英語を自分の仕事や趣味に活かしたい」という理由で英語を勉強しにきている多くのワーホリメーカーや、オージーの配偶者を持ちここに永住している日本人にとっては、英語だけに集中する方が良いに決まっている。むしろ、脳内の言語スイッチが切り替わりつつあることを表す症状だという解釈をするならば、好ましいとさえ言えるだろう。では何故俺がここまで危機感を抱いているのかというと、それは通訳者や翻訳者としての言語能力を考えるにあたって、当然として母語も高いレベルで保たれなければならないからだ。今のこの状況で日本語の能力を日本にいた時と同じ水準に保ち続けるには、これまで以上に集中して真剣に日本語の書籍を読まなければならないだろう。オーストラリアに来てまで英語ではなく日本語の本を読まなければならないとは、何とも皮肉なことだろう。

ただ、この問題に対する自分のこの認識が正しいかについては、今ひとつ自信がない。日本で長年英語を教えていた語学学校の教師に助言を求めると、彼は「こっちにいる間は日本語は一切忘れろ。今、お前がそう思い日本語の書籍を読む必要性に駆られているのは、日本に帰った後に同じ現象が今度は英語に発生するのをまだ知らないからだ。俺はその両方を経験したから断言できる。こっちにいる間は、読み書き、聞き取りから喋りに至る全てにおいて日本語を完全に忘れるように努め、今のうちに養えるだけの英語力を養っておきなさい。思考回路を完全に英語に切り替える努力をするべきだ」とアドバイスしてくれた。

危機感を抱いているとはいえ、それは母語なのだから日本に帰れば自然と回復するはず、というのが彼のアドバイスだ。そんなことを考える前に不十分な第二言語に全力で時間を注げということだが、確かにそうかもしれない。二兎を追う者は一兎をも得ずと言うが、どうするべきだろうか。通翻クラスタの先輩諸氏に助言を仰ぎたい。

今のところは、そういう状況に直面していることもあって城山三郎の「落日燃ゆ」を読んでいる。こうした言語環境で日本語の書籍を読んでいるせいか、楽しく感じる。

一方で、仮に件の教師のアドバイスが正しく、即刻日本語の読書を中断する方が正しかったとしても、知識の習得についてどうすればよいかという問題が残る。自分はまだまだ世の中の全てにおいて知識不足だと思うし、それは通訳や翻訳をする上で致命的だろう。そのため、言語能力の向上とは別問題として日本語での読書を通じて知識の習得に励み続けるべきではないか、とも感じている。その場合、今の自分には英語での読書では効率が悪い。

こうしたことを考えると、日本に住むネイティブの通訳者や翻訳者が自らの母語(英語)のレベルを維持するのに普段から大変な苦労をされているだろうことが容易に想像できる。日本にいながらどのようにして日本語から「解放される」時間を確保しているのだろうか。興味深い。
改めて、通訳・翻訳という作業が要求する言語能力の高さを思い知らされている。

そして重ねて、何か少しの助言でもお持ちの方がいらっしゃれば、コメント欄ででもお聞かせいただけないかお願いしたいと思います。

もし、この記事が読者にとって、これまでに執筆してきた過去の記事に比べて、読むにあたってより多くの困難を強いるものになっているとすれば、これ以上に忸怩たるものはない。

2012/08/13

邂逅その1:丸岡さん&石亀さん

Facebookの方では既に写真を投稿済みなのでご存知の方も多いかもしれませんが、先月28日、ついに丸岡さんとご対面することができました!当日はクイーンズランド大学にお邪魔し、日本滞在時からお誘いを受けていた丸岡さん主催の通訳セミナーに参加してきました。

丸岡さんのことはマミねーねーを通じてツイッターでご紹介を受けたのがきっかけ。出発直前、6月末にマミねーねーの自宅で開催されたホームパーティーでSkypeのビデオチャットを通して画面越しに初対面。モニター上で初めましての挨拶を交わすというちょっと不思議な体験でしたw お会いできるのを楽しみにしてたから、無事にご対面を果たせた時は嬉しかった。
6/23 PC画面に映ってるのが丸岡さんw この時初対面。この一週間後ぐらいに坊主に。
セミナーは「社内通訳・翻訳の仕事」という題目で、オーストラリアに移住後フリーランスとしてお仕事をされている女性通訳者の方が、日本国内の某製薬会社で社内通訳者としてキャリアを重ねていた際に得た経験や教訓をもとに、これから通訳デビューを考えているプロ志望の人を対象にアドバイスなどを語ったものでした。日本ではもっと実務的なセミナーを受けていたから勉強になった。

このセミナーはUstreamを通してリアルタイムで配信されていたようで、いつもお世話になっている通翻クラスタの方がネット越しに質問をされていた。日本で通翻関係のセミナーに参加していた際は、いつもは海外在住の日本人通翻訳者の方がチャットで質問をされるのが普通だったため、これまたなんだか不思議な感覚だった。未だに外国にいる気がしないのだけど、この時は物理的な距離を感じたなぁ。

セミナーの他の参加者は殆どがクイーンズランド大学の通訳翻訳課程(MAJIT)でみっちり勉強をされている学生ばかりで、セミナー終了後はお話することができた。
その際に丸岡さんのお話を伺って興味深く思ったのが、「通訳や翻訳に対する世間や企業一般の考えは日本以上に浅く、待遇も厳しい」というものだった。「英語ができれば通訳や翻訳なんてできるでしょ」的な考えがより一層強いらしい。
これまでツイッター上で通訳や翻訳に対する日本での世間一般の認識の甘さが通翻訳者たちの間で度々問題視されるのを見てきたから、英語が公用語のオーストラリアではもっとマシな状況なんじゃないか・・・と勝手に予想していたのだけど、まるっきり逆の話でびっくりした。

けど、よく考えたら、歴史的に移民の国だし、むしろ移住してくるよそ者達がこっちの言語に合わせて英語を習得するわけだから「英語なんてチョロいぜ」的な考えが強くなるのも当然だろうという話でした。日本みたいに国をあげて英語学習に躍起になって必死に勉強する(しかし誰も話せないという・・・)という現象が起こってないから、「英語が難しい」という認識自体がそもそも低くいため「英語ができればあんたの母国語で通訳(翻訳)できるでしょ」という考えがより一層強いのだとか。「ここでゼロから勝負しようっていうフリーランスは厳しいんじゃないかなぁ」という丸岡さんの言葉がとても印象的で、この日はとても良い勉強になった。日本のように翻訳者や通訳者同士が集まるリアルのコミュニティが無いために、プロ同士の交流が乏しいという話も興味深かった。通訳翻訳課程(MAJIT)の学生のみなさんからは刺激を受けました。

交流会終了後には一悶着あったのですが(笑)、その後丸岡さんがGrill’dというハンバーガー屋さんに連れていってくださり、ご馳走になってしまった!オーストラリア初の外食は大変美味でした。(トップ写真参照)

写真右が丸岡さん、奥が石亀さん。石亀さんはオーストラリアの某IT企業で社内翻訳をされているとのこと。JAT(日本翻訳者協会)の会員としても活動されているそう。石亀さんのことは失礼ながら全く存じ上げてなく、交流会の場で初めてお会いしご挨拶させていただいたのだけれども、彼は俺のことを以前から知っていてくださったようで驚かされた。なんでも、Facebook上で他の通翻訳者の方の「イイネ!」などを通して俺の写真や投稿が目に入っていたそう。「確か沖縄の方ですよね・・・?」と石亀さんの方からお声をかけてくださった時は、改めてネットの凄さ(怖くもあったけどw)を実感しました。

日本では何度もJATのセミナーに足を運んで勉強させてもらったけど、微々たることでもやっておいてよかったなーと感じた。まさかプロでもない俺のことをお会いする前から知ってもらえるなんて・・・と感激した出会いでした。その他にも、交流会のメンバーの中に高橋さんの会社員時代の同僚がいらしたりと、「世の中せめえ・・・」と思うことしきりで、ますます外国にいる実感の薄れる日でありました。

丸岡さん、この日はセミナーに呼んでいただきありがとうございました。ハンバーガー、ご馳走様でした。

ShareThis